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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)4001号 判決

原告

(イギリス国)ザ・ブーツ・

コンパニー・リミテツド

右代表者

ベーター・テスター・メイン

右訴訟代理人弁護士

小池恒明

右訴訟代理人の輔佐人弁護士

浅村晧

外二名

被告

大洋薬品工業株式会社

右代表者

新谷重樹

右訴訟代理人弁護士

荒井良一

主文

本件訴訟は、昭和五一年七月一二日、訴の取下により終了した。

昭和五一年一〇月六日付書面による口頭弁論期日指定申立後の訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

被告訴訟代理人は、次のとおり述べた。

一、本件について、原告は、昭和五一年七月一二日、当裁判所に対し、被告に対する訴を取り下げる旨の取下書(以下「本件取下書」という。)を提出し、右書面は、その頃、被告に送達された。

二、しかしながら、本件訴の取下は、左記理由により、その効力を生じないものである。

1  民事訴訟法第二三六条第二項によれば、被告が本案について、準備書面を提出した後においては、被告の同意を得ることが訴の取下の効力発生要件とされているところ、右の本案とは、訴訟の目的すなわち原告の請求の当否に関する事項を指すが、請求棄却の申立は、請求原因事実についての検討及び総合的判断を前提として、原告の請求について、全面的に争おうとするものであり、本案についての主張の総括であるから、本案についての申立にあたる。

しかして、本件については、被告は、本件訴の取下前に答弁書を提出したが、右書面には本案に対する答弁として、原告の請求棄却の申立が記載されているので、結局、被告は、本案について、準備書面を提出したものである。

2  また、民事訴訟法第二三六条第二項が右のように訴の取下について、被告の同意を効力発生要件としたのは、一たん提起された訴については、反射的ではあるが、訴が取り下げられないことについて有する被告の消極的確定の利益を保護することにある。しかして、被告が第一次的に訴訟要件の欠缺を主張して、訴却下の判決を求め、予備的に本案について答弁をする場合には、被告は、まだ確定的に本案についての審理を求めているのではないから、被告の右のような消極的確定の利益を保護する理由がなく、訴の取下について、被告の同意を要しないのである。これに反し被告が管轄違の抗弁を提出して、訴訟を管轄裁判所に移送することを求めるとともに、本案について、答弁する場合には、移送された管轄裁判所において、本案についての審理をすることを積極的に求めているのであり、しかも、管轄違の抗弁は、他の訴訟要件の欠缺の主張とは異なり、妨訴抗弁とはされていないのであつて、移送の申立がいれられても、いれられなくても、本案についての審理に入ることを予定しているから、被告の本案についての答弁は、予備的なものではなく、確定的なものである。

しかして、本件については、被告は、前記答弁書を提出して、管轄違に基づく移送の申立をするとともに、本案について、確定的な答弁をしようとするものであるから、訴が取り下げられないことについて、前述のような利益を有するものである。

3  以上のとおりであるから、本件訴の取下については、被告の同意がなければ、その効力を生じないところ、被告は、本件訴の取下には同意をしていないから、本件取下書により、訴の取下の効力は生じない。

理由

一本件について、原告は、昭和五一年七月一二日、当裁判所に対し、本件取下書を提出したので、当裁判所は、本件訴訟がこれにより取り下げられて、終了したものと扱つたところ、被告訴訟代理人は、昭和五一年一〇月六日付書面で右取下は効力がないとして、口頭弁論期日指定の申立をしたことは、当裁判所に明らかである。

二被告は、本件訴の取下については、被告の同意がないから、取下の効力が生じない旨主張するので、検討する。

民事訴訟法第二三六条第二項によれば、訴の取下は、相手方が本案について準備書面を提出し、準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後においては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない旨が規定されている。

しかして、本件については、被告は、昭和五一年五月三一日付及び同年六月七日付各答弁書を提出したが、右各答弁書には管轄違に基づく訴訟の移送の申立が記載されるとともに、本案について、請求棄却の判決を求める旨が記載されていることは、本件記録上明らかである。右事実によれば、右答弁書の記載によつて、被告は、第一次的に本件訴訟を管轄裁判所に移送することを求めており、結局、管轄違の抗弁を提出して、当裁判所が本件について、管轄権を有しないので、訴訟要件が欠缺し、本件訴訟が不適法である旨を主張し、予備的に請求棄却の判決を求めるものというべきである。

ところで、訴訟要件についての申立は、本案についての申立ではなく、また、右のように予備的に請求棄却の判決を求めても、本来、請求棄却の本案判決を求めているものとは解されないから、結局、被告は、右条項に定める本案についての準備書面を提出したものということはできない。したがつて、本件訴の取下については、被告の同意を必要としないから、その取下は、被告の同意がなくても、有効であり、被告の右主張は、理由がない。

三その他一件記録を精査しても、本件取下書による本件訴の取下について、その効力を否定すべき事由を認めるに足りる資料はない。してみれば、被告の昭和五一年一〇月六日付書面による口頭弁論期日指定の申立は理由がなく、本件訴訟は、昭和五一年七月一二日、本件取下書の提出により終了したものというべきである。

よつて、本件口頭弁論期日指定申立後の訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(高林克己 佐藤栄一 塚田渥)

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